Sweet Time
嬉しそうな微笑と別れを悲しむ涙。
それぞれ各自の胸には旅立ちを祝う花が飾られている・・・
今日、この場所に来る時に通った道も
三年間も歩いて来たのに何処か華やかに見えた。
刻々と春が近づいているっと天気予報のキャストが爽やか営業スマイルで
言っていたことが嘘と思えるほど寒さが残る朝。
切なさと希望が入り乱れる感情・・・。
ザワザワと話し声が耳に入ってくる廊下。
前の扉は、2学期の終わり頃からスムーズに開かない。
その引き戸が、今日はいつもより少し重く思えた。
教室に入ると、既に自分の席や机に座りながら話をしている男子。
泣きそうな、寂しそうな顔をしながら式の後のことを喋っている女子。
あまり話したことのなかったクラスメイトでも、今日ばかりは
みんな笑顔で挨拶を交わす。
そんなことを思いながら自分の席に向かう。
真ん中の列の一番後ろから二番目の席・・・
・・・この席に座るのも今日で最後。
「おはよう」
「おはよぉっ」
後ろの席の友達と交わした挨拶のトーン。
いつもと変わらないのに、それが嬉しかった。
「今日・・・だね〜」
黒板に早めに来た担任が書いたのだろうか
『卒業、おめでとう!!』という文字を指差しながら
後ろの席の南田 笑が言った。
笑とは一年の時に部活が同じで、私が部活を抜けても
いろんなことを話したりして仲良くしてくれた。
朝のホームルームが始まるまで笑と話をしていると
前の扉が開いて一人の女子がこちらに向かって歩いてくる。
「おはよぉ〜、
さん、笑さん」
堀中 亜都美。
朝の挨拶のとき名前の後ろに冗談で『さん』付けするのは、いつものことなので
かるく流して「おはよう」と笑いながら言う。
これも、毎日と変わりない・・・。
亜都美とは小学校頃・・・いや、保育所から一緒で
付き合いの長さは、友達の中で1位を争うほどに長かった。
亜都美がカバンを置きに行って、私の席に戻ってくると
また、話を開始する・・・
そして話の途中で担任の先生が来て話しは終わってしまう。
今日で最後になる朝の先生の話を聞いて、もう隣りでは泣きそうにしているクラスメイト
それを苦笑しながら見ていると、先生の話は、いつの間にか終わっていた。
ホームルームの後、先生の指示に従って廊下に並び体育館に向かう。
冷蔵庫のように寒い体育館の中には在校生や保護者が待機している。
「じゃあ、配った花つけて〜っ」
担任の中村 尚子先生の合図で
私たちは教室で配られた花飾りをつける。
『卒業生の入場です。一同起立してください。』
マイク越しに聞こえる教頭先生の声。
一斉に起立する音。
静かに流れ出す『春に』の曲。
そんな中、ゆっくりとした歩調で私たちは入場した。
この学校で最後の国歌斉唱、最後の校歌・・・。
卒業証書の授与、長ったらしい校長や市長、PTA会長なんかの祝辞。
祝電披露、在校生からの贈る言葉、在校生に向かっての合唱。
全てが終わってからの卒業生の退場・・・。
・・・式が終わるのは、思ったよりも早かった。
一旦教室に戻ると、真赤な目をした笑や亜都美が笑って私を向かいいれてくれた。
そして、泣いている中村先生の話を聞いていると
自分まで目頭が熱くなってくるのがわかった。
それをグッと耐え、笑顔で話が終わるのを待つ。
最後に在校生の花道を通って、私のこの学校での学園生活は幕を閉じた。
家に帰ってベットの上に寝転がっていると携帯電話が着信を伝える。
手探りで携帯を手繰り寄せ、光を放つ画面を見る
そこには、滅多に電話なんてしてこない幼馴染の名前があった。
(ん、京一から・・・?)
身体を起こして、携帯を耳に付ける・・・
聞こえてくる声が、やけに懐かしかった。
「もしもし?」
『もしもし、
か?』
「そうだけど〜?」
「これ、私になんだから私しか出ないに決まってんでしょ?」笑いながらいうと
京一も、「それもそうだな」って苦笑していた。
「で、なにか用事なんでしょ?」
『あぁ、・・・渡したい物があるんだが。』
「いつもの公園に来てくれ」っと、それだけ伝えると
京一は私の返事も待たずに通話を切った。
いつもは、もう少し相手の都合を聞いたりする彼にしては珍しいなぁ。
なんて思いながら公園へと向かう・・・。
京一とは幼馴染で、結構仲が良い私たちは
よく話をしたり遊んだりする。
大概、二人で遊びに行く時など京一が先に待ってくれるので
私は、走って公園に向かった。
しかし、京一の姿は公園には無く。
急いできたというのに拍子抜けだった・・・。
それから少しすると、呼び出した本人が姿を見せる。
「待たせて悪い」と言って近くの自販機で私の気に入っているココアを
買って私の方に軽く投げた。
「ありがと」
それを受け取って微笑むと、京一は自分のコーヒーを手に持って
私の隣に腰掛けた。
「卒業、しちゃったね・・・。」
「泣きそうになっちゃったよぉ」なんて、今日について話す。
友達が大泣きしたことや、先生のこと・・・そして三年間のことを振り返る。
祝電披露のときに懐かしい先生から送られてきた電報。
『僕らの前にはドアがある』、広い世界へ、という歌の一節。
卒業式が終わって、まだ数時間しか経っていないのに涙が出そうになる。
「泣きたい時は泣けよ?」
「泣かないよ、このおめでたい日に泣くわけないじゃん?」
そんな優しい京一の一言に私は、そう微笑みながら答えた。
「それに!今、泣いちゃうより、今度再開した時に泣くって計画してるからね」
へっへ〜んと言い切った私に、お前らしいと京一は苦笑を漏らした。
「電話で言ったとおり、渡したいものがあるんだが・・・」
いよいよ本題、っというように京一が話を切り出した。
何か貸したもので返し忘れたものでもあるのだろうか、っと一瞬思ったけど・・・
律儀な京一のことだから、そんなことがあるわけないということは私がよく知ってる。
何かと待ちわびている私に、京一は手のひらサイズにしては少し大きいような箱を
私の手のひらに置いた。
「これ、開けていいの?」
首を傾げて問いかけると、京一はさっさと開けろっと言うように促した。
なんだろう、っと箱に掛かっているリボンを丁寧に開けると
そこには薄いピンクとシルバーの可愛らしい時計が入っていた。
「・・・時計?」
これを私に?っと目線で聞くと京一は頷いて口を開いた。
「だいぶ前になるが、バレンタインとかいうヤツの礼だ。」
そういえば、っと一年前のことを思い出した。
二年生のとき、京一に渡した甘さ控えめのチョコ・・・
「義理だからね」って、念を押したけど
おまけでつけて貰ったカードには『本命だよっ!』と短く書いて渡した。
一年前の今日、ちょうどホワイトデーで胸を期待に膨らませて学校に行ったものの
京一からの返事はなくて、正直、諦めてた、私。
三年生になってからはクラスが違って、それからは話を交わす機会も少なかった。
だけど、私の気持ちに変化はなし・・・。
まさか、覚えてくれてたなんて思いもしなくて
「覚えてたの・・・?」
忘れてたと思った、っと言った私のことばに、
京一は再び苦笑を漏らした。
「渡そうとは思っていたんだが・・・」
タイミングがな、っと京一が口を開いた。
「この機会を逃したら、二度と言えないと思ってな。」
「好きだ、遅くなってすまない。
もし、今も俺のことが好きなら付き合ってくれないか?」
俯いて押し黙っている私に京一は、そういった。
「・・・私も、好きだよ」
ずっと、待ちわびていたことば・・・。
もう、聞けないかと思っていたことば・・・。
一年前、諦めたはずだったことば・・・。
すぅっと、暖かいものが私の目からこぼれたのがわかった。
「もう、京一のせいで私の計画狂っちゃったじゃん!」
冗談交じりにそう言っても、私の瞳から零れる涙は止まらなかった。
「それは、俺のせいじゃないだろうが?」
指で涙を拭ってくれる京一に抱きつくと
京一は少し驚いたけど強く抱締めてくれた。
もう一度、囁かれる好きのことば。
公園から帰るとき、京一は私を家まで送るっといった。
ほらっ、と差し出された手を握り返し
二人で手を繋いで、公園を出た。
今年は遅咲きの桜のつぼみが、ゆっくりと膨らんだ
桜の木の下を通りながら私たちは微笑みあった。
R「予告していた京一さんの夢です!」
京「・・・部活夢は次回らしい。」
R「更新の順番が逆になってしまいましたが、RAYの初京一さん夢です」
京「気に入ってくれたヤツは少ねぇと思うがな・・・」
R「自分の文才くらい理解してるから言わないで・・・」
慎「だいたい前置き長くねぇ?」
R「いや、そこはツッコまないで・・・」
京「中学卒業して少しはマシになったかと思えば・・・」
R「・・・精進します」
慎「で、次回の夢は?」
R「えっと、上記で京一さんが言ってるように京一さんの部活夢です。」
慎「俺の夢も考えてんだろ?」
R「はい、一応は・・・」
京「ま、期待せずに待っててくれ」
R「ここまで読んで頂きありがとうございました。」
慎「感想などはBBSにヨロシクな?」