*第一話* 陽射しの中の日常へと


何度と叩くドアを前に、一人の少年は溜息をついた。
目の前の部屋の主から渡されている合鍵を見つめ、
意を決したように、ドアノブに手を掛けるが
その鍵が役目を果たすことは無かった…。

「開いてる…?」

いつものことだが、無用心だと思いながら
少年は部屋に足を踏み入れた。


床に転がり、けたたましく鳴り響く目覚まし時計のアラームを止め、
寝室の中央にある、本人お気に入りと御用達のキングサイズのベッドを
少年は見やる。
ベッドの上には、いまだに夢の中にいる部屋の主の姿があった。

(…いつも、よく眠ってますね。)

予想的中と言わんばかりに、失笑を漏らし
その幸福そうな安心しきった彼の寝顔を見て
少年は、起こしてしまうのが可哀想に思った。
だが、このままでは学校に遅れてしまいかねない。
再度の溜息をつくと少年は、彼を起こしに掛かった。

「皇輝、朝です。起きて下さい!」

幾度か、揺さぶりを掛けながら声を掛ける。
―――5分後。
そうして、少年の朝の奮闘が実ってか
眠り姫ならぬ、王子は目を開けた。

「…ん〜っ?王、来…?」

「おはようございます、皇輝。」

むくりっと起き上がりベッドの縁に座る彼を見て
王来と呼ばれた少年は、にこりっと笑って挨拶をする。

「朝食の準備をしておきます。その間に、着替えを済ませてくださいね。」

ベッドに腰を下ろしたまま、瞼をこする彼に告げると
王来は、寝室からキッチンへと向かう。

―数分後、トーストの焼ける香ばしい匂いが
部屋中に広がる。
簡単なスープと、小さなサラダ、オムレツっといったものが
綺麗に皿に盛られ、ダイニングテーブルの上に置かれるのと同時に
先ほど、目覚めたばかりの彼が部屋の中に入ってくる。

「おはよ、王来。」

そう言うと、彼は朝食の用意された席に座る。
赤い色物のTシャツの上に、前が全開に開かれた学ラン。
さらりっと揺れる、肩上まで伸びた黒髪は、
そこら辺の女子と比べ物にならないほど綺麗に整えられていた。
また、寝ぼけ眼だった瞳は、髪の色よりも漆黒に近く
美しいともカッコいいとも取れる、その容姿の中で一番、印象的だ。

―彼、東 皇輝…。

東と聞けば、小さな子どもでも知っている世界でも
トップクラスの財閥…、その御曹子が皇輝だ。
表向きは、ホテルやマンション、テーマーパークなどを
有数所有し、運営しているが…裏では、どこぞのヤクザやマフィアが
束になっても敵わないほどの権力・実力を兼ね揃えた黒桜月龍会 東組…
皇輝は、その東の長男…ゆくゆく、財閥・黒桜月龍会を継ぐ任を
幼いころから、期待されて育ってきた。

「おはようございます。」

再度、挨拶をする少年に小さく頂きますっというと
皇輝は、朝食に手を付け始める。
しばらくして、レモンの香り漂う紅茶のカップを
王来は、皇輝の前に出す…。
その頃には、皇輝も朝食を食べ終えていた。

「美味かった…。」

「ありがとうございます。」

紅茶のカップを口元に運び、その香りと味を
十分に堪能している皇輝を見て少年―王来は微笑み
食べ終わった食器類を手早く洗っていった。

ゆったりっと、静かに流れていく朝の時間を
二人で過ごす…。
ふっと、携帯の静かな着信音が流れ王来は、それを手に取る。

―受信 西瀧 神さん。

その内容を見て、我に返ったかのように時計を見ると
時刻は、そろそろ家を出なければいけない時間になっていた。

「皇輝。神さんが来たみたいですよ。」

自身の鞄を持ち、皇輝の鞄を手渡すと王来は玄関に向う。
先に、ガチャリっとドアが閉まる音を聞き
皇輝も玄関の扉を開ける。
静かに、閉まる扉に鍵をかけて皇輝は、待ち人二人が待つ
エントランスに向かうため、エレベーターに向かい始める。



――それが、彼らの日常だった。

  そして、彼らの一日が今日も始まる。