Night Kids【黒き刺客】
―――am.1:48
時刻は、深夜へと移り変わり後数時間ほどで朝日が昇る。
そんな中、眠りに就く街の静けさからは比べ物にならないほど
騒がしい峠…。
夜な夜な走りの好きな若者たちが集まり、
ある者は、自分の腕を上げるため、
また、ある者は自慢の車と自分の腕を競い合う…。
そんな山の頂き近い駐車場に、中でも目立つ集団が存在する。
タバコを吹かし、大声で笑いながら今日も車の傍らで
何気ない御喋りを楽しんでいるのだろう…。
「ホント、32ばっかりなんだなぁ…」
その集団を遠目で見ながら呆れるように、
は一人呟いた。
自分の背後で唸りを上げるマシンに視線を向け
同じ車であっても、人によってこうも変わってしまうのか。と
感心したような呆れたような溜息をつくと
趣味の悪い爆撃機のステッカーが貼られている32の集団を見ていた。
すると、その中の一人が気づいたのであろう、何人か人を引き連れ
自分たちのチームを見つめ続ける少年に訝しそうに近づいていく。
「お前…さっきから、なんか用か?」
「俺たちのチームに喧嘩でも売ってんのかよ?!」
開口して間もなく告げられて言葉に
少年は、黙って彼らの行動を見ているだけだった。
(必要のない喧嘩は、買う必要なし…疲れるしな。)
少年が内心で自己完結を終えると、今だ塞がらない口で
次から次へと罵声を並べる男たちに半場呆れながら苦笑を漏らす、
それが気に障ったのであろう、男の中の一人が
の後ろのマシンに矛先を向けた。
「てめーも32か、どうせ大した腕も持ち合わせてねーんだろによぉ!」
自分の方が腕ならば一枚も二枚も上だと思った男は
少年の32のタイヤを蹴り飛ばした…。
その瞬間、少年の目の色が変わったことを誰が気づいただろう…?
そして、必要のない喧嘩は、この時点で必要性のあるものに変わった。
途端に口元だけで不敵に微笑むと少年は、男たち睨みつける。
「そんなに買って欲しいなら、あんたらの喧嘩買ってやるよ。」
怒気を含んだ様子も無く静かに告げられた言葉…。
静寂の中に滲み出るような憤りの感情を、誰が感じ取ることが出来ただろうか…?
否、少年の怒りをダイレクトに感じたのは、彼の愛車だったであろう…。
身の程知らずが、と呟くように男たちの中の一人が
既に下りのスタートラインに、その漆黒のマシンを寄せている彼の隣に
己の32を止める。
少年の真っ黒な32とは対照的に、男の32は明々としたオレンジだ…。
まるで対象の存在を表すような、その色に
は微かに苦笑する。
フロントガラスの向こう側…。
幾分か馴れた鼓動の高鳴り、なんとも言えない緊張感。
ビリビリと空を裂き、身に突き刺さるように感じるそれが心地良い。
前方を見れば、天を指すように掲げられた手が
一本、また一本とカウントを知らせる…。
相手のマシンの咆哮が合わせるように大きくなった。
それに、比例して少年の中のテンションも徐々に高みへと向かっていく。
「GOーーー!!!!」
告げられた合図、振り下ろされた手。
アクセルを踏み込むのと同時に、銃器の玉が飛び出すかのように
二台の車は、闇の中へと突き進んでいった…。
始め、少年は後攻の体勢を取った。
スタートダッシュ直後、相手の車から一歩引くように
敢えて、男の後ろにつく。
こうすることで、相手にプレッシャーを与えることが出来る。
まるで、ぶつけられるかどうか、っといったギリギリまで
少年は、ピッタリと後ろに張り付く。
そして男は、動揺させられるかのように、焦っていた。
いくらアクセルを踏み、コーナーに突っ込んでいっても
お構い無しといわんばかりに、くっつく彼に恐怖すら感じ始めていた。
「ちくしょーっ!なんなんだよ、コイツ!!」
狙った獲物は、逃さない。そんな後方の32から伝わる雰囲気。
そして、いくつめのコーナーだっただろうか。
過度のプレッシャーに耐え切れず、微妙に男が挙動を乱す。
その瞬間を、少年は見逃さなかった。
僅かに空いた、コーナーのインサイドにフロントノーズを介入し
抑えきれずに膨らんでいくオレンジ色の32は、前方を空けるしか術がなかった。
――そして、勝負は着いた。
「喧嘩売る相手、間違えたんじゃねぇの?」
勝利を獲、32の中で小さく呟き笑いを漏らす
は元いた駐車場へと
40%程のペースで上っていく。
32のシフトカバーを、そっと撫でて微笑む表情には、
嬉しそうな表情が浮かんでいた。
峠を走り始めて、どのくらいの月日が過ぎたかなど忘れてしまったが
この快感だけは、忘れようもなかった。
「誰だ…アイツは?」
だが少年は気づかなかった…そのコーナーを立ち上がる頃、一台の車と擦れ違ったことに。